超雑訳 Progressive Photon Mapping: A Probabilistic Approach (1)

前回の「Progressive Photon Mappingについて」の最後で触れた”Progressive Photon Mapping : A Probabilistic Approach”の超雑な和訳をしていきます。

 

この論文では,プログレッシブフォトンマッピングの新しい定式化を提案します。元々のプログレッシブフォトンマッピングと同様に,我々のアプローチは,極限においてバイアスがなく,一定のメモリ容量を使用するのみで大域照明計算が可能な解法です。その解法が生み出すのは,その他のアルゴリズムでは難しい状況下で,高品質な結果を生み出します。例えば,屈折する材質によって完全に囲まれた現実的な照明器具を持つシーンにおいてなどです。新しい定式化は確率的導出に基づいています。我々のアプローチの重要な性質は,ローカルのフォトンの統計量をメンテナンスする必要がないということです。さらに,我々の導出は放射輝度推定において任意のカーネルを使用することを可能とし,統計学的レイトレーシングアルゴリズムを含んでいます。最後に,我々のアプローチはボリュームメトリックフォトンマッピングに容易に適用可能です。我々のアルゴリズムと以前のプログレッシブフォトンマッピングのアプローチを比べて,ローカルのフォトン統計データなしに同じ非バイアスの結果に収束することを示します。

 

1.INTRODUCTION


フォトンマッピング[Jensen 2001]はレンダリング方程式[Kajiya 1086]を数値的に近似する解法として広く知れ渡ったアルゴリズムの一つです。フォトンマッピングはモンテカルロ積分に基づいており,パストレーシング[Kajiya 1986]や,その異形[Lafortune and Willems 1993]またはメトロポリス光輸送[Veach and Guibas 1997]に似ています。フォトンマッピングの利点の1つは,計算コストが等しいという点においてで,モンテカルロアルゴリズムよりもノイズが少ない画像を頻繁に生成することが可能です。フォトンマッピングはモンテカルロ法のサンプル数が無限大になったときのように数値的に正確な解に収束するという意味で,一貫性があります。しかしながら,その他のモンテカルロテクニックと対照的に,バイアスがあり,制限されたサンプル数で近似の期待誤差がゼロでないことを意味します。
フォトンマッピングはキャッシュされ,モンテカルロのサンプルを再利用するのが計算効率の理由です。アルゴリズムの第一段階では,サンプルやフォトンをフォトンマップの離散的データ構造体にキャッシュします。第二段階においては,それらサンプルが基本的にはある半径を持つ円形の範囲ごとにフォトンの数を数える放射輝度推定と呼ばれる処理の近似に再利用されます。しかしながら,この近似はキャッシュされたサンプル上でローパスフィルタと同様に動作します。それは常に真の放射輝度の過度に滑らかな近似を返します。したがって,解において非ゼロの期待誤差やバイアスを引き起こします。無限の数のフォトンをキャッシュすることが出来れば,このバイアスは理論的には消えます。

蜂須賀ら[2008; 2009]は近年このメモリボトルネックに打ち破るシンプルな戦略であるプログレッシブフォトンマッピング(PPM)を提案しました。プログレッシンブフォトンマッピングはシーケンスの各ステップにおいて制限された数のフォトンを使用して,フォトンマッピングの結果のシーケンスを増加的に更新します。このシーケンス上で,各ステップにおいて放射輝度推定の半径は減少されます。重要なのは極限において,増加更新が非バイアスなレンダリング方程式の解に正確に収束するように半径を減少するこというです。蜂須賀らは放射輝度推定が評価される必要がある各領域にたいしてローカルな統計量をメンテナンスすることによってこれを達成しました。統計量は領域において収集されたフォトンの数を含みます。最も単純な場合では,領域は各ピクセルを通じて見ることができたすべての点です。確率的PPM[Hachisuka and Jensen 2009]では,光沢のある反射または被写界深度のような効果を描画するために領域が一般化されています。

この論文では,プログレッシブフォトンマッピングの確率的導出を紹介します。我々のアプローチの重要な性質は,ローカルの統計量をメンテナンスする必要がないということです。それゆえ,我々のアプローチはメモリのないプログレッシブフォトンマッピングと呼ぶことが出来ます。フォトンマッピングの結果のシーケンス内の各ステップにおいて,完全に独立して実行できることを我々は示します。利得として,各ステップは並列計算すること,あるいは標準的なフォトンマッパーがブラックボックスとして使える状態で計算することができます。さらに,我々の導出は放射輝度推定において任意のカーネルを許可します。我々はまた,分散と単一パラメータを用いて制御される期待誤差間のトレードオフを明らかにする漸近収束分析も示します。我々のアプローチはシンプルで簡単な方法で確率的プログレッシブフォトンマッピングのシナリオを含んでいます。最後に,過去に示されていないボリュームメトリックフォトンマッピングが容易に適用可能であることを実証します。我々のアルゴリズムと以前のプログレッシブフォトンマッピングのアプローチを比較し,ローカルの統計量なしでさえ,同じ非バイアスの結果に収束を達成するのを示します。

要約すると,我々の貢献は以下になります:
―確率的なフレームワークに基づく,確率的PPMを含むプログレッシブフォトンマッピングの新しい導出
―分散と期待誤差に対する収束率が得られる漸近収束分析
―統計量のメンテナンスを必要としないメモリレスなアルゴリズムは独立して各ステップを計算し,望めば並列で,任意のカーネルで動作し,ボリュームメトリックなフォトンマッピングへの拡張は軽微です。

 

3. PRELIMINARIES: VARIANCE AND EXPECTED ERROR OF RADIANCE ESTIMATION


このセクションでは,確率的観点から分散とフォトンマッピングの放射輝度推定の期待誤差を分析します。表記法の概要はTableⅠを参照してください。
\begin{eqnarray}
x, \omega & : & 表面点と出射方向 \\
L & : & 反射された放射輝度 \\
M & : & 放出されたフォトンの数 \\
x_{j}, \gamma_{j} & : & j番目の位置座標とフォトンの寄与 \\
k & : & 放射輝度推定のための基準カーネル \\
k_{r} & : & 半径r内の放射輝度推定のためのカーネル \\
\epsilon & : & 放射輝度推定の誤差 \\
{\rm Var}[\epsilon] & : & 放射輝度推定の誤差の分散 \\
{\rm E}[\epsilon] & : & 放射輝度推定の期待誤差 \\
p_{l} & : & フォトンの確率分布 \\
N & : & プログレッシブフォトンマッピングのステップの数 \\
c, \bar{c}_{N} & : & 正確なピクセルの値,Nステップ後の推定値 \\
x_{i}, \omega_{i} & : & ステップiでの視経路の衝突点の位置と方向 \\
p_{e} & : & 視経路との衝突点の確率分布 \\
W & : & 視経路の寄与 \\
\bar{\epsilon}_{N} & : & Nステップ後の放射輝度推定値の誤差の平均 \\
{\rm Var}[\bar{\epsilon}_{N}] & : & 放射輝度推定の平均誤差の分散 \\
{\rm E}[\bar{\epsilon}_{N}] & : & 放射輝度推定の平均期待誤差
\end{eqnarray}

TableⅠ: 記号の概要

これらの結果は,次のセクションでの導出の基礎を形成するものとなります。放射輝度推定は反射された放射輝度\(L(x, \omega)\)を近似します。ここで,\(x\)は表面位置を表し,\(\omega\)は出射方向で,\(L(x, \omega)\)はBRDF[Veach 1998; Pharr and Humpherys 2004]と乗算された入射した放射輝度値のローカルで重みをとった平均によって計算されたものです。フォトンマッピングは次の測定のモンテカルロ推定を計算をします,

\[
L(x, \omega) \approx \frac{1}{M}\sum^{M}_{j=1}k_{r}(x_{j} – x)\gamma_{j}
\tag{1}
\]

この総和は,シーン上で放出されたすべての\(M\)個のフォトンを巡ってであり,\(x_{j}\)はフォトンの位置を示します。カーネル\(k_{r}\)はローカル平均において各フォトンの重みを決定する関数です。線形スケーリング係数\(r\)を介した基準カーネル\(k\)に関係するのは,指定されたローカル平均のウィンドウのサイズです。任意の\(r\)に関して,カーネルは単一積分を持ち,フォトン位置\(x_{j}\)と推定の位置\(x\)の間の差分\(x_{j} – x\)に依存します。フォトンの位置はランダムプロセスを用いて生成されます。すなわち,モンテカルロパーティクルトレーシングです。それらは\(p_{l}\)と示す,ある確率密度に従ってシーンの表面上に分布しています。最終的に,\(\gamma_{j}\)は各フォトンの寄与です。これは,BRDFとフォトンの値の積を含みます。フォトンの値は,サンプルされたパスの確率で除算されたフォトンによってトレースアウトされたパスの寄与を示しています。

我々は今,分散と期待誤差値\(\epsilon(x, r)\)を分析し,それは位置\(x\)における放射輝度値の差分と\(r\)でスケールされたカーネル\(k_{r}\),そして真の放射輝度\(L(x, \omega)\)を用いて定義します

\[
\epsilon(x, r) = \frac{1}{M}\sum^{M}_{j=1}k_{r}(x_{j} – x)\gamma_{j} – L(x, \omega)
\tag{2}
\]

分散。 \({\rm Var}[\epsilon(x, r)]\)によって\(\epsilon(x, r)\)の分散を示します。この分散の推定値を取得するために,カーネル\(k\)のサポート内でフォトンの確率密度が一定であるという仮定をします。この密度は\(p_{l}(x)\)とします。またランダムな値\(\gamma\)のサンプルとしてフォトンの値\(\gamma_{j}\)を解釈します。これは我々の分析において異なるフォトンパスと非拡散反射面上のBRDF値のためにフォトンの寄与の分散を含めることになります。Appendix Aで示すように,我々の前提下で,分散は次のように近似されます

\[
{\rm Var}[\epsilon(x, r)] \approx \frac{({\rm Var}[\gamma] + {\rm E}[\gamma]^{2})p_{l}(x)}{Mr^{2}} \int_{\mathbb{R}^{2}}k(\psi)^{2}d\psi
\tag{3}
\]

これは,放出されたフォトンがM個で,カーネルスケールの2乗値に比例して分散が減るのを直感的に確かにしています。また上記の式は,分散上の基準カーネル\(k\)の形状に影響を与えることを明らかにしています。我々はまた,希望する分散を指定して,対応するカーネル半径を取得することが出来ます。

\[
r(x, {\rm Var}[\epsilon]) \approx \sqrt{ \frac{ ( {\rm Var}[\gamma] + {\rm E}[\gamma]^{2} ) p_{l}(x)}{M {\rm Var}[\epsilon]}\int_{\mathbb{R}^{2}}k(\psi)^{2}d\psi }
\tag{4}
\]

我々はプログレッシブフォトンマッピングアプローチのための半径を導出するために後でこの関係を使用します。

期待誤差。 Appenidx Bに放射輝度推定\(E[\epsilon(x, r)]\)の期待誤差が半径の2乗に比例することを示します。すなわち,ある定数\(\tau\)に関して

\[
{\rm E}[\epsilon(x, r)] = r^{2}{\rm E}[\gamma]\tau
\tag{5}
\]

です。これは,期待誤差がカーネルの半径のスケールの2乗値に比例して減少するということ洞察として裏付けています。不運なことに,数値的に\(\tau\)の係数をを推定することは簡単ではありません。なぜかというと,フォトンの密度分布\(p_{l}(x)\)の高次の導関数に依存するからです。しかしながら,この結果は次のセクションでの我々の分析において,それでも有益であります。

体積放射輝度推定。 分散と期待誤差の我々の分析は,体積放射輝度推定にも適用することができます。これは次のセクションで示すように,容易にプログレッシブフォトンマッピングの関与媒体に拡張することができます。体積放射輝度推定はカーネルが2次元の代わりに3次元であることを除いて,式(1)と同じ形式です。それゆえ,上述と同じ仮定下では,体積の場合に類似の解析を行うことは単純です。結果は,要素\(r^{2}\)を\(r^{3}\)に置き換え,積分を\(\mathbb{R}^{2}\)上から\(\mathbb{R}^{3}\)上を積分に置き換えると,式(3)から(5)まで同じになります。

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